タイトル文字からアート作品まで 『鈴木成一 装丁を語る。』
装丁には正解がある
今週のお題「芸術の秋」
『鈴木成一 装丁を語る』
装丁とは
先に、装丁とは何か。
書籍の表紙,カバー,外箱,タイトル・ページのデザイン,および材質の選択を含めて装本を製作すること。
コトバンク
一番目立つのは本の表紙ですね。
みなさんも、お気に入りの表紙のデザインってないですか?
本日は、知れば知るほどおもしろい装丁の世界を紹介します。
本の装丁に関する本 また二人の装丁家
以前も何度か、装丁に関する記事を書きました。
特に前回は、『本の顔』(坂川栄治)を紹介し、本の装丁が出来上がるまでの過程を紹介しました。
編集者と坂川さん、著者本人の本に対するアツイ想いが形になっていく様子が激アツで、本の装丁を見る際も、そこにどんな想いやドラマ、時には遊び心が含まれているかを読み取りたいな、という気持ちにさせてもらいました。
さて、『本の顔』ですっかり装丁の虜となった僕は、装丁に関する本をもう一冊読みました。
『鈴木成一 装丁を語る』
です。
坂川栄治さんと同じく、装丁家として大活躍されている方です。
とても多くの作品を手掛けているので、みなさんのお気に入りの装丁を作られたのも、坂川さんや鈴木さんかもしれません。
共に日本を代表する装丁家のお二人ですが、装丁に関する考え方は異なるように思います。
坂川さんは「売ることが一番で、デザインは二番目になった」と言います。
つまり、「いかに手に取ってもらいやすい本に仕上げるか」を意識しているのです。
デザインには流行があります。『本の顔』の中でも「流行」という言葉が再三登場しました。また、本の内容から読者層を想定して、装丁のコストを決めたりもしてるそうです。
一方、鈴木さんの場合、
純粋にデザインを楽しんでいる。
というのが僕の
抱いた印象です。
装丁には正解がある、と私は思っていまして、原稿を読めば、「本としてこうなりたい」というかたちがやっぱりあるわけですよ。個性をちゃんと読み込んで、かたちにする。飾りで読者の気を惹くのではなく、その本にとっての一番シンプルで必要なものを明確に演出する。そのときに、いかに自分が新鮮に思えるか、わくわくできるか、ですね。そうやって作ったものって、やっぱりちゃんと伝わりますから。
(「はじめに」より)
鈴木さんの本には、「流行」の言葉は出てこなかったかと思います。
世間にどう求められるかを気にするのではなく、一心不乱に原稿自身が一番輝くかたちへ磨き上げるといったイメージでしょうか。
世間のニーズに的確に応える装丁を送り出す坂川さんと
原稿と著者の想いに向き合い、自分が納得するまで高めていく鈴木さん
どちらが良いというわけではありませんが、二人の信念の相違は面白いです。
装丁あれこれ
タイトル文字で伝える
こちらのタイトル文字、拙い感じがいいですよね。
実はこれ、鈴木さんの息子さん(当時6歳)が書いたもの。
手書きの文字は「引っかかり」ができるそうです。
イラストを使う
赤毛のアンはシリーズで10巻ほどあります。赤毛のアンを今更普通のイラストで出す必要は無いだろうと、全体を壁紙のようなイメージでまとめています。
鈴木さん曰く、本は家具みたいなもの。
手元に置いておきたい大事なものを目指した装丁とのことです。
空想の友達を持つ少女(ポビーとディンガン)を救うためにお兄ちゃんが奔走するというお話。
イラストは酒井駒子さん。現在は絵本作家として活躍されている方です。
ふつうはタイトルを絵の上に乗せますが、このときは勿体なくてできなかったとのこと。
読後印象から発想する
始めから編集者の方に「この写真で装丁してくれ」と依頼を受けたそう。
元々はモノクロだったものを、鈴木さんの読後の印象が「黄色」だったそうで、変更したとのことです。
『白夜行』、僕はまだ読んでいないんですが、黄色なんですかね?
本の構造を利用する
子供から老人に至るまで、プレゼントを通して女性の一生を描くという角田光代の短編集。
カバーが織り込んであり、広げると、、
プレゼントの包装紙になる。
これぞ、売ることを無視した装丁へのこだわりです。
著者本人、または関連する作品を出す
すごいインパクト。
鈴木さんのコメントを抜粋。
図々しさと自信がありましたので、もうそのまま等倍で本人の顔を載せてみようと。(中略)村上さんにとっては戦略のうちだっていう。そういう判断でやってみました。ちょっとギリギリですかね。やりすぎ?
本文中の素材で構成する
ファンタジー小説。
著者本人が挿絵を描いていて、それらを集め合成したものが表紙になっています。
その上に波のパターンを刷った透明なカバーを巻いて海のイメージを表現しているそうです。
海を渡って物語の世界を旅しているようです。
モチーフを形にする
表紙だけでもインパクトがあります。
ただ、それだけではありません。
表紙をめくると1ページ目にも鳥居が、
もう1枚めくると少し小さい鳥居が、
さらにめくると本殿の写真が。
つまり、表紙の鳥居をスタートに、入り口から本殿に向かっていく過程をそのまま表現しているのです。
すごいこだわり。
アート作品を併せる
スペインのある村を舞台に、死んだ男が語る小説。その死者の視線の先にある風景を想像したとき、20世紀半ば、パリで活躍したロシア人画家のアート作品がぴったりだと思ったそうです。
優しい雰囲気なのに引き込まれていくような良さがあると思います。
直木賞受賞作。
表紙を見ただけで、良くないことが起きることが伝わってきます。
絵を描いたのはマルレーネ・デュマスという作家で、この本のあと、装丁の依頼は一切断っているらしい。
その意味でも貴重な装丁です。
あえて何も使用しない。
上の画像だとわかりにくいですが、
黒い紙に黒の箔押し。
*拾い画
著者のイメージが既に出来上がっている場合に、いかにそれを裏切るか、新鮮に魅せるかといった工夫の一つとのこと。参考になります。
まとめ
いかがだったでしょうか。
普段何気なく見ている本の表紙、或いはお気に入りの本の表紙たちは、装丁家や編集者の熱意や工夫の上に完成しています。
まだまだ僕も修行中ですが、是非とも本の装丁から、彼らの熱意を汲み取って、目一杯楽しみたいですね。