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【日本文学のすゝめ】 #5 志賀直哉 『暗夜行路』

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ー 過去は過去として葬らしめよー

 

志賀直哉 『暗夜行路』

 

おすすめ度

おもしろさ ★★★★☆

読みやすさ ★☆☆☆☆

*「おもしろさ」は僕の独断と偏見による評価です。

「読みやすさ」は文体や必要な予備知識、本文の長さなどから評価しています。

*先に「【日本文学のすゝめ】#1」の記事を読むことをおすすめします。 

raku-book.hatenablog.com

 

小説の神様

突然ですが、皆さんにとって小説の神様って誰ですか?

 僕の場合、ちょっと前までは宮部みゆきが大好きだったんですが、最近はいろんな作家を読み始めて、だれが一番だかわからんなぁという感じです。

 

さて、かつて人々に「小説の神様」と言わしめた男がいました。

 

志賀直哉です。

 

誤解を恐れずにいうと、僕にはどの辺が神様なのかはよくわかりません。当時の人々とは暮らす文化も、比べる作家も全く違うからだと思います。

 

ただ、小説の内容が面白いのは事実です。

 

なので、「志賀直哉が神様たる所以を読みとかなくては!」なんて気負いせず、気楽に読んでみてください。

 

 純文学=ドキュメンタリー

おすすめ度の読みやすさの項目をご覧になったでしょうか。

堂々の☆1つ!!

最大の要因は本編の長さ。文庫版で600ページ弱の大ボリュームです。

そして理由がもう一つ。純文学特有の、テーマのわかりにくさです。

 

『暗夜行路』とは恋愛、親との不和、結婚後の苦悩といった、主人公時任謙作の半生を描いた作品です。何が一番のテーマかというのは専門家でも意見の割れるところで、いくつか大きめの事件は起こるけども、本編全体を貫くような大テーマは見つけにくい。

 

純文学は、「テーマは何なのか」を見極めるのが難しいところです。しかし逆に、自分なりに見出したテーマを念頭に置きながら作品を味わうことで、いくらでも奥深くまで楽しむことができる。

その世界の広がりを何とか伝えられないものかと苦心しながら記事を書いてきましたが、そこそこ良い喩えを思いついた気がします。それが、

 

純文学=ドキュメンタリー番組

 

野生の動物の姿を延々と追っていたり、職人に密着取材したり、大家族の生活にずかずか入り込むあれですね。僕はNHKの「ドキュメント72時間」という番組が好きです。インスタント麺の自動販売機に72時間密着していたときは度肝を抜かれました。

 

ミステリやファンタジーなどはドラマや映画にあたる。実際映像化もされやすいですしね。では純文学は?

そうか、ドキュメンタリー番組か。と思い至ったわけです。

 

物語の見どころはここです!とは教えてくれない。『暗夜行路』の場合、読者は主人公の半生をただただ見つめます。

でもその中に面白さやメッセージ性がないかというと絶対にそんなことはなくて、読む人の着眼点や想像力によって、いくらでも味わうことができる。ドキュメンタリー番組じゃないか。

 

この考えに至って、僕がこの手の小説をそんなに苦も無く受け入れられるのはもともとドキュメンタリー番組が好きだからかもなあと思いました。なので、「ドキュメンタリー番組のどこが面白いかわからん」という人が文学に興味を持たせるにはどうしたらいいんだろなあとも悩んでおります。

 

ひとまず、【日本文学のすゝめ】シリーズでは、初めて読む方でもテーマを掴んで読み進められるよう、一般的、もしくは僕が掴んだテーマを紹介していますので、十分文学を味わう入口に立てます。ただ、本当にこの世界にどっぷり浸かりたいのであれば、予備知識をあえて持たず、まっさらな気持ちでテーマを探しながら読んでほしいです。

 

ラスト、どうなると思う?

「ドキュメンタリー72時間」は72時間分の密着が終われば番組は終わりです。では、『暗夜行路』の場合はどうか。

僕はこの作品を読みながら、ラストが気になってしょうがなかった。

どんでん返しが起こりそう!とかではなく、これだけ脈絡もなく主人公の人生が流れていく作品で、志賀直哉はいったいどこでこの物語を終わらせるつもりなのか。

 

そのある種の心配を、いい意味で裏切られました。

 

うええええええここで終わり!?

 

僕の感想だけお伝えしておきますね。これ以上は言えません。

 

暗夜行路〈前篇〉 (岩波文庫)

暗夜行路〈前篇〉 (岩波文庫)

 

 

 

暗夜行路〈後篇〉 (岩波文庫)

暗夜行路〈後篇〉 (岩波文庫)