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【日本文学のすゝめ】 #1 初心者必見!日本文学を読むための予備知識と心構え

 

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日本文学を味わい尽くす。

 

 日本文学は面白くない!?

 

こんにちは。

ということで、日本文学のお勧めをじゃんじゃん紹介していきたいところですが、

今日は作品の紹介はしません。

 

誤解を恐れず言うと、

日本文学は普通に読むだけでは面白くありません。

 

 

 

いや、もちろん面白いんですが、時代も文化も違うし、表現も読みにくい。

そういう点では今を時めく作家さんたちの小説のほうが読みやすくて面白いのは当然ともいえます。

何の準備もなく近現代の文学に立ち向かっても

「おお、こ、これが名作か。」

知ったかぶをすることになりかねません。

 

せっかく読むのであれば、しっかりと作品を味わい尽くして欲しい。

というわけで【日本文学のすゝめ】第1回では、作品を味わうために必要な最低限の知識を紹介していきます。

 

*尚、ここで紹介するのは最低限の知識です。日本文学の世界は本当に奥が深い。

そして、そういった知識は自分で勉強したほうが格段に楽しいと思うので、日本文学に魅力を感じた方はぜひ新書等でその方面の勉強をしてみてください。

 

日本文学の"おもしろさ"

まず、みなさんには現代の小説と近現代の小説では

面白さのポイントが異なる

ことを頭に入れてほしいです。

 

今の小説のおもしろさ

 

今の小説では、一つの結末に向かって登場人物が動いていきます。

物語の節々には伏線がばら撒かれ、ラストシーンで今まで関係ないと思われていた事柄はブワワアアアと繋がり、衝撃的な終わりを迎える。

読者は、

「こういうことだったのか…。作者天才かよ。」

と拍手喝采。

今の小説でよく読まれるのはこういった作品ではないでしょうか?

少なくとも、本編と全く関係のない話、人物が出てくることはあまりありません。

洗練されたストーリーの中、流れるように結末へと向かっていきます。

 

今の小説のおもしろさの中心は「構成力」ではないでしょうか。

どんなラストを想定するか、それに向けどんな伏線で持って読者を導いていくか。

その導き方がアクロバットであるほど「素晴らしい!」となります。

近現代の小説のおもしろさ

 

では近現代の小説の場合。

登場人物もストーリーもやりたい放題です。

一応大きなストーリーの流れはありますが、大きなストーリーとは関係のない人物が出てきて、全然関係のない話を展開することがよくある。

 

例えばストーリー中盤に突然キャラの濃い人物が登場する。一通り脈絡のない茶番を終え、読者としては、「この人はことあとどんな形でメインストーリーに絡んでくるんだろう。」と考えをめぐらすところですね。

しかしその人物は二度と出てきません。

本当になんだったのか。

 

まあこんなようなことがざらにあります。

今は慣れましたが、はじめのうちは大いに混乱します。

 

何が言いたいかというと、近現代の小説を読む場合、今の小説を読むように「構成力」におもしろさを求めると痛い目にあいます。

「この作者はどうやってラストまで導いてくれるのだろうか。」と期待すると、ただただ迷子になり漂流するだけです。

おそらく、近現代の作家はストーリーを一本の線で結ぶということを余り意識していません。書きたいように書いている。やりたい放題です。

 

ではどこにおもしろさを求めればいいか。

作者が作品に込めたメッセージです。

 

夏目漱石の『こころ』は教科書で読んだかと思います。

主人公の「私」が「K」と一人の女性を取り合う話です。

授業では、「作品に現れる”エゴイズム”を読み取れ。」みたいなことが言われましたよね?

その「読み取り」近代文学をグっとおもしろくします。

 

近現代の文学中の登場人物は、一人ひとりが当時の世界や人間の一面性をを映し出している。人間や社会の醜さや葛藤を人物の中に凝縮し、閉じ込めている。

作品に溶け込む著者のメッセージを読み解けるようになると、もう近現代の文学の虜です。

 

作品の時代と流れ

もう一つ大事なのは、作品の時代と流れです。

その作品が書かれた時代や背景、あるいは他の作家の影響などがわかっていると、前節で書いた「作者のメッセージ」が格段に読み取りやすくなります。

 

 たとえば、明治40年代は自然主義の流れが主流でした。

 田山花袋の『蒲団』をご存じでしょうか。

 売れない作家が弟子の女学生に思いを寄せ、言い寄ろうとするも、女学生はそれを拒否し下宿を飛び出してしまう。作家はあろうことか弟子が使っていた蒲団と寝間着を抱え「ああ…」  

とんでもない話です。

 自然主義は人間の内に秘めし深い闇(『蒲団』は性欲)を表現する暗い雰囲気を持った流派です。なぜこのような作品が流行ったかというと、当時近代化の流れの中で日本には西洋の個人主義が入って来ていました。それ以前の家族を重んじ個性を押し込めていた日本人から、個を前面へと押し出した人々に変わりつつあったのです。そんな背景で、自らの内面(個人)を見つめる自然主義が流行りました。

 そしてそれと同時代に勢いがあったのが耽美派です。谷崎純一郎が有名でしょうか。

 彼らは反自然主義とも呼ばれます。夏目漱石の余裕派や志賀直哉たちの白樺派もそれに属します。

 要するに、

「自分の弱さを告白すればいいと思ってんのか!文学舐めるな!哲学に左右されないおもしろい文学を書け!」

 という熱い思いを持った人たちです。耽美派=官能的というイメージで敬遠してきた方も、彼らの思いを知ると読みたくなってきませんか?実際耽美派性描写もなく、読み物として読みやすいので是非読んでみてはどうでしょうか。

 

文学史年表

以下、簡単な年表です安藤宏『日本近代小説史』参照)。

だいたいどの年代に書かれた作品なのか。同時代の作品はどんなものか。下の程度の知識があるだけで大いに楽します。

 

明治30年

自然主義島崎藤村田山花袋  

夏目漱石  

森鴎外

明治40年

自然主義

白樺派志賀直哉武者小路実篤有島武郎   

耽美派永井荷風・谷崎純一郎

大正

新現実主義:芥川龍之介

プロレタリア文学小林多喜二

新感覚派川端康成横光利一

昭和初期

心理主義:堀辰夫

新興芸術派:井伏鱒二梶井基次郎

昭和20年

第一次戦後派

無頼派太宰治坂口安吾

昭和30年

第二次戦後派

 

当然もっと細かく、作家と作家の師弟関係や友人関係、敵対関係までいくらでも出てきます。女を取り合っていたなんて話も多く、それを踏まえて読むと

「あの作家を意識して書いてるだろこれ。」ということまで見えてきます。

 

専門家の意見を聞く

最後にマニアックな楽しみ方をご紹介。

例えば夏目漱石で言えば、一つの作品に対し何十もの論文が書かれています。関連本やエッセイも多いです。

現代の作家の本で気になることがあっても、頼りになるのはネットに落ちている情報くらいですが、近現代の文学は心行くまで専門家の声を聞けます。

これもまた近現代の作品の楽しみ方でしょう。

 

死者のメッセージを読み解く

僕は現在文学部の学生ですが、うちの大学の日本文学の教授が

「文学と向き合うことは、死者のメッセージを読み解くことだ。」

とおっしゃっていました。

かつて日本に生きた誇るべき文豪たちが、どんな思いで作品を書いたのか、それを自らの手で読み解いていくことにロマンを感じます。

 

次回からは早速作品の紹介をしていきます。

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