【日本文学のすゝめ】 #2 夏目漱石『三四郎』
ー明治の思想は西洋の歴史にあらわれた三百年の活動を四十年で繰り返している。ー
夏目漱石『三四郎』
おすすめ度
面白さ ★★★★☆
読みやすさ ★★★☆☆
※「面白さ」は僕の独断と偏見による評価です。読みやすさは文体や必要な予備知識、物語の長さなどから評価しています。
※先に【日本文学のすゝめ】#1の記事を読むことをお勧めします。
作品概要
こんな方におすすめ
・夏目漱石を読んでみたい!
・青春ラブスト―リーの原点を読みたい!
・「今のままでいいのか」と悩む高校生、大学生
かの有名な夏目漱石の初期の作品。主人公の三四郎が熊本の大学から東京の大学へと進学し、新しい時代への接触に悩む青春ラブストーリーです。
見どころは何といっても、妖艶な雰囲気を持つ美禰子(みねこ)と三四郎のやり取り。明治の男性は女性慣れしていないのかシャイなのか、読んでいるこっちがモジモジしてしまうほどの情けなさ。(現代の男性もそんなもんか。)三四郎の淡い恋の命運はいかに!?
学問、友情、恋愛への戸惑いは現代の僕たちにも通じるもの。「今のままでいいのか」と悩むのは昔も今も変わりませんね。周囲との接触に戸惑いながら自分の内面を見つめていく様子は「まさに近代文学!」です。
三つの世界
三四郎の物語で重要なのは以下の三つの世界との接触です。
・【第一の世界】地元熊本の今までと変わらない世界
・【第二の世界】大学を中心とした閉鎖的な世界
・【第三の世界】都会の華やかな世界
三四郎はその三つの世界で自分の身をどこに置くのかに悩みます。地元にはいつでも帰れるがとりあえずは東京で頑張る。ひとまず大学でのコミュニティに落ち着くものの、都会の華やかな世界という禁断の果実への想いが断ち切れません。
美禰子とお近づきになりたいけれど、あっちが自分のことをどう思っているのかわからない…モジモジもじもじ
もどかしい!!
ぜひ三四郎を応援し、尻を引っぱたくような気持ちで読んであげてください。
新時代への戸惑いは、近代文学の大テーマです。個人主義の広がりに伴い、人々は自分のあるべき姿や醜い内面を見つめます。また、個人主義的な”わがまま”な女性像に振り回されます。
三四郎と美禰子の恋模様ももちろんですが、新時代との接触に戸惑う人間模様(三四郎以外も含めて)にも注目して作品を味わい尽くしてください。特に、美禰子の視点に立って読むのが圧倒的におすすめです。三四郎から見た世界では美禰子は第三の世界の代表として不動の地位を築いていますが、実際には美禰子自身も新時代に戸惑い、揺れています。
登場人物
・小川 三四郎
-主人公
【第一の世界】
・三四郎の母
-熊本から仕送りや手紙を送ってくれる。
【第二の世界】
・野々宮 宗八
-三四郎の同郷の先輩で理科大の研究者。美禰子と親し気な姿を見せる。
・佐々木 与次郎
-三四郎の大学の友人。
・広田先生
-高等学校の英語教師。
・原口
-画家。野々宮や広田と親交があり、美禰子の肖像画を描く。
【第三の世界】
・里見 美禰子
・野々宮 よし子
-野々宮の妹。美禰子とも親交が深い。
『三四郎』の愛すべき登場人物たちです。特筆すべきは第二の世界の人々。全員男性。全員独身です。本文を覗いてみましょう。
第二の世界に動く人の影を見ると、大抵不精な髭を生やしている。あるものは空を見て歩いている。あるものは俯いて歩いている。服装は必ず穢い。生計はきっと貧乏である。
スコスコに馬鹿にしていますね。しかし、三四郎自身もこの世界に身堕としているのです。三四郎は第二の世界と第三の世界の間で揺れていますが、第二の世界で根を張っている野々宮や広田先生の開き直りには脱帽しました。
近代文学では、登場人物に当時の社会問題を投影するので、おのずと一人一人性格が濃くわかりやすくなります。
例えば、『三四郎』では冒頭に電車で乗り合わせる女性がいます。流れに流され三四郎は女性と宿を共にしますが、入浴中一緒に湯船につかろうとする女性に対し焦り散らかし、就寝時は潔癖症のふりをして女性と接触しないようにして寝る。あげく女性は去り際に「あなたは本当度胸のない人ですね。」と言い放ちます。この女性は、田舎から初めて東京に出てきた三四郎に対し、第三の世界を代表して鼻っ面に先制パンチをお見舞いする訳です。三四郎は、都会はなんて恐ろしいところなんだと縮み上がります。
なんでこの人物が登場するのか、この人はどんな世界を代表しているのかを考えながら読んでもおもしろいです。
この先はぜひ本編を手に取って読んでみてください。
(おまけ)あの話、この話
おまけです。
本編を読み終わった方向けに書くので、未読の方は読んでも何のことやらって感じだと思います。
内容としては、本編の中で「この話なんだったんだ?」と感じたことを書き綴りますので、それについてご意見ある方はコメントを頂きたいです。
轢死の謎
宗八がよし子の病院にお見舞いに行く夜のこと。三四郎は宗八の家で一晩留守番しますが、その際、女性が汽車に轢かれ亡くなりますよね。
あの描写って必要でしょうか。物語にも直接関わりないし、インパクトのある話なのに、何を表していたのか、謎に包まれたままです。誰か教えてください。
広田先生の友人
物語終盤、体調を崩したという広田先生のもとにお見舞いに行くと、先生と友人が柔道の寝技をしているというカオスな描写があります。終盤に出てきたので何かしらラストに影響を与える人物かとおもいきや、二度と出てきません。あの人は何なんでしょうか。なんなら先生が風邪を引いたところから全て本編と一切関係がありません。漱石が終盤に謎の描写と謎の人物を登場させた意味、誰か教えてください。